掛け軸にはさまざまな様式(スタイル)があります。それらは本紙(描かれている絵や書などの内容)によってどの様式の掛け軸に仕立てるか、というある程度の決まり事があるのです。当店では作品をより引き立たせるように、色柄を考慮し表装裂の選定、寸法割りを行い表装いたします。
下記の掛軸は、当店の表装事例です
仏教関係の仕立
仏教関係の仕立の特徴は本紙廻りを中廻しの裂が取り囲み、さらに天地と柱の裂(総縁)が同一で取り囲みます。本紙から外に向かって、一文字廻し-筋-中廻し-筋-総縁となるのが「真の真」、本紙-一文字-筋-中廻し-筋-総縁とするのが「真の行」、本紙-筋-中廻し-筋-総縁とするのが「真の草」といいます。主に金襴を使用することが多いですが、総縁を緞子や綾にすることもあります。仏仕立(真の真) |
仏仕立(真の行) |
仏仕立(真の草) |
神祇関係の仕立
神祇関係の仕立は主に「行の真」で仕立てます。一文字、中縁、天地と3種類の裂で表装し、「行の真」は一文字が本紙の廻りを囲む(一文字廻し)形になります。特に神号などは清浄を表す白色を基調とした表装をします。
大和仕立(行の真) 天神像 |
大和仕立(行の真) 神号 |
大和仕立(行の行)
神号 |
日本画の仕立
風景、花鳥など日本の伝統的な系譜にある絵はほとんどこの大和仕立てにします。神に通じるもの(富士山、日の出など)や格の高いものは「行の真」に、一般には「行の真」の一文字廻しから柱部分だけを取り除いた「行の行」に仕立てます。これを特に三段表装とも言います。
大和仕立(行の行)
秋の七草 |
大和仕立(行の行)
鶴と亀 |
大和仕立(半幢補)
兎 |
茶掛けの仕立て
墨跡、禅語、消息など茶席に用いられる掛け物を茶掛けといいますが、中縁の左右の柱を細くした「輪補仕立」がよく用いられます。一文字、風帯のあるものを「草の行」、一文字、風帯のないもの、あるいは一文字がなく中縁の裂で風帯をしたものを「草の草」いいます。
風帯を紙を貼った形の押風帯や筋で割り付けた形のものも多くあります。
輪補仕立 |
輪補仕立(草の行) |
輪補仕立(草の草) |
南画、文人画の仕立
南画、文人画や、中国趣味の水墨画などは文人仕立の軸装をします。丸表具、二段表具などがあり、明朝という掛軸の両巾に1㎝前後の太さの縁を付けることもあります。軸先を撥型の物や、釣り鐘型の変形軸を用いたりもします。風帯は付けません。明朝仕立 |
太明朝仕立 |
二段表装 |
書の仕立て
書の内容や本紙の大きさによって、前述の様々な様式に表装します。一般的な条幅(半切)の書道作品の場合は袋表具にします。これを三段表具に仕立てると、掛軸全体が長すぎたり、妙にバランスの悪い仕立てになったりします。また、隷書、篆書、中国碑文など内容が、中国的なものは通常は大和仕立てにはしません。
袋表具
「以和為貴無忤為宗」 法隆寺貫主 |
上下明朝仕立
隷書「亀」 (中国人の書) |
輪補仕立
かな (芭蕉の句)
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その他 創作表具の仕立
創作表具は、様式、寸法、材料なども新しい発想で自由なスタイルで作るものです。 これは、本紙作品が今までの格式にとらわれない前衛的な書や抽象画、洋風画など、新しい感覚のもの場合に適していると言えます。 最近では、床の間以外の場所にも掛軸を掛けることが試みられ、タペストリー的なものもよく求められます。作品の作者あるいは所有者の意向と、ほとんどが、表具師の感性によるところのデザインで作られるものです。小川雨虹 画 「巳の春」 | 藤永清香 筆 「瀧」 | 永田峰亭 筆 「花故酔人」 |